俺は手元に置いてあったスプーンを手にした。
二人の視線がプリンに注がれたまま、時間が止まったかのような沈黙がテーブルを囲む。
ナギ「……先生、食べないの? もしかして、嫌いだった?」
久斗「や……なんかさ、もったいなくて……こんなにキレイに作ってあるから……ナギってメ カだけじゃなくお菓子つくりの方でも器用なんだな」
ナギ「………!」
ナギは顔を真っ赤にしたかと思うと、それきりエプロンの端を握り締めたまま俯いてしまった。
……俺はまた何かNGワードを言ってしまったのだろうか。
それとも、さっさとこの感動的なプリンをほおばるべきだろうか?
――キュイィィン――
『検索中……二人で食べるのは、あーんして食べる』
「……ロ、ロボ!?」
「―――!!」
沈黙を破ったのは、ロボの一声だった。
「コ、コラ! なにをいいだすんだお前はっ! どこでそんなコトを覚えた!?」
苦し紛れに俺は年頃の娘を持つ父親の如く、ロボの丸い頭をコツンと叩いてみる。
この球体の中には、目覚まし以外にどれほどの機能が搭載されてるというのだろう。
「その……プログラミングしたのは私だから」
「――あ、そそ、そうか。てことは、ええっ!?」
ナギはやっと顔をあげると、俺を見つめて言った。
「先生。あーんして、食べて」
俺が頷くと、ナギは嬉しそうに微笑んでスプーンを握った。
「私の計算だと、ここをこの角度ですくうと一番美味しいはず――」
「そうなんだ……てか…え?」
俺の目の前へと差し出されたスプーン。
そこには瑞々しい色をした苺とクリームのハーモニーを奏でるプリンが乗っている……美味しそうだ。
「………」
美味しそうだが、いかんせん、巨大すぎた。
「あーん」
「はっはひ……」
一センチ二センチと口に近づくほどに、俺は実感した。
これはデカすぎると……。
しかしナギの嬉しそうな笑みを見ると、どうにも言い出せなかった。
「……い、いただきます」
(バイト先にて、ナギが作ったプリンを食べることに。イチゴもでかいがプリンも…)
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